2026年10月18日 イベントレポートストーリー

何を受け継ぎ、次をどうつくるのか。 ─アトツギが語った「葛藤と挑戦」|アトツギラボ第30回

何を受け継ぎ、次をどうつくるのか。 ─アトツギが語った「葛藤と挑戦」|アトツギラボ第30回

2026年9月30日、アトツギコミュニティのイベント「アトツギラボ」の第30回を、一般社団法人応縁堂とZET-BASE KYOTOの共催で開催しました。アトツギラボは、一般社団法人応援堂が2024年3月から京都で毎月続けてきた場です。

この日、アトツギラボが大切にしている考え方として紹介された言葉の一つが、「人類みなアトツギ」。

家業を継ぐ人、継がないという選択をする人、受け取ったものを違う形で次へ渡していく人。そこには、さまざまな「アトツギ」の形があります。

今回のテーマは「葛藤と挑戦」。家業と向き合ってきた6人が、それぞれの現在地を語りました。

それぞれの「葛藤と挑戦」

西陣で1909年に創業した繊維業の4代目、川村啓太さんは、家業に戻るかどうか、会社を続けるべきか、そして日々の資金繰りまで、これまで何度も葛藤してきたと話しました。

経営する以上、数字から逃れることはできない。それでも「収益=ゴール」には、どうしてもできない。

創業者や次の世代から「いい会社だった」と思ってもらえる会社にしたい。その先に思い描いているのが、使い終えた靴下などを綿に戻し、糸にして、再び製品へと循環させる仕組みです。

ただ、それをどう事業として成立させるのか。そもそも何を目標にすればいいのか。「まだ言語化できない」と率直に話していたことが印象に残りました。

「収益=ゴール」ではない。受け継いだ繊維業の先に、循環する新しい事業の形を模索しています。

炊飯工場を継いだ2代目、谷本祐輝さんは、コロナ禍で売上が大きく落ち、その後は米価高騰に直面した経験を語りました。値上げをお願いしている間にも仕入れ価格が上がり、赤字になった時期もあったといいます。

そこから田んぼやマルシェなど新しい取り組みを始め、学生との商品開発にも挑戦。学生が考えたおにぎりを実際に商品化しました。

ところが、反響はあっても、ほとんど利益にはならない。

それでも「この思いを形にしたい」と、2027年4月には新会社を立ち上げ、学生たちが地域のおにぎりを競う「おにぎり甲子園」の実現を目指しています。

「まず自分が変わる」。本人が繰り返していた言葉と、その挑戦が重なっていました。

「まず自分が変わる」。新しい事業や地域との取り組みに挑戦しています。

東大阪で食肉加工卸を営む2代目、相崎聖太さんは、家業に戻ってから新規取引先を開拓し、売上を伸ばしてきました。

一方で、肉の目利き、資金調達、職人の技術を次へつなぐ教育制度など、会社全体を見る経営者としての判断は「まだ追いついていない」と話します。

「いつになったら父に安心して引退してくれと言えるのか」。

その期限として自ら置いたのが、3年でした。

自社商品や新工場の構想、肉屋という仕事そのものを発信する取り組みも始まっています。すでに成果を出していても、その先にはまた別の葛藤がある。事業を継ぐことのリアルが、その言葉から見えてきました。

「父に安心して引退してもらえる状態」を目指し、経営者としての次の3年に向き合っています。 

京都市中京区のシルクの掛け布団を手がける株式会社北川商店の5代目、北川翔一さんが語ったのは、約30年ぶりとなる新卒採用についてでした。

北川さんが採用活動の中で気付いたのは、入社を考える方が5年後、10年後にどう成長していけるのか?その姿と夢に会社としてどんな支援ができるのか?ということです。

会社のこれから目指したい方向性の中で、当人が経験でき得る仕事を細かく分解し、仕事像を再構築し提示しながら、将来のマイルストーンまで資料にして、何度も話し合ってきたといいます。

伝統産業の業界では前例がない中、当人のキャリア形成を鑑み、常勤勤務の中で副業を進める場合の知的財産や権利関係の取り扱いなど、新しい働き方に伴う課題についても、アトツギの先輩方、大学の先生や法務の専門家に相談しながら一つずつ丁寧に考えているそうです。

先代から受け取ったものをどう生かしていくか。そして、自分たちが次の世代に何を渡せる会社をつくるのか。そんな視点も見えてきました。

30年ぶりの新卒採用を通じて、次の世代を迎える会社づくりに向き合っています。

納得できる選択を

マンション清掃会社を母と営む布浦佳乃さんは、母から会社の将来を問われたことをきっかけに、自分の人生と家業について考え始めました。

仕事、結婚、これからの家族、子育て。そして、母が長年守ってきた会社。

簡単には答えが出ない中で、自分自身に3つの基準を置きました。

「ワクワクする方を選ぶ」

「自分で責任を持てる選択をする」

「絶対に人のせいにしない」

自分が好きだった仕事は何だったのか。どんな家族でいたいのか。自分はどんな人生なら納得できるのか。考え続けた末に出した答えは確固たる決意でした。

どんな選択の先にも、これまでの軌跡は残っていく。そして、アトツギは目に見える資産だけではなく、目に見えない価値も思想もしっかりと受け継いでいます。

家業と自分の人生に向き合い、考え続けた末に自分の納得できる選択と未来がある。

それでも、何かは受け継がれている

最後に登壇したのは、板金加工業の2代目で、ZET-BASE KYOTOの入居者でもある毛戸健嗣さんです。 これまでの登壇者の話を受けて、冒頭でこんな趣旨の言葉を口にしました。

「後を継がないと決めた人も、結局、何かは継いでいるんだろうなと思う」

自身が父から受け継いだのは、「品質を大事にしろ」という姿勢と、「自分の頭で考えろ」という教えでした。

工場の通路に線を引こうとして父とぶつかり、それでも夜中に自分でペンキを塗ったこと。板金加工の技術を生かしてECサービスを立ち上げ、さらにペット用火葬車の開発へと事業を広げてきたこと。

毛戸さんは、「悩む」ことと「考える」ことの違いについても語りました。「考える」は未来に向かうもの。その言葉の通り、受け継いできたものを起点に、自分なりの方法で事業を動かしてきました。

何を受け継ぎ、それをどう次へつないでいくのか。その形もまた、人によって違います。

ZET-BASE KYOTO入居者の毛戸さん。父から受け継いだ教えを胸に、板金加工の技術を新たな事業へと広げています。

話を聞き、自分の言葉で考える

6人の登壇後は、参加者がそれぞれ気になった登壇者のもとに分かれ、さらに話を聞く時間が設けられました。

登壇では語りきれなかったことを聞いたり、自分自身の経験を重ねて話したり。会場のあちこちで対話が続きました。

アトツギが抱える葛藤には、すぐに答えが出ないものもあります。自分の状況を言葉にし、違う立場の人の話を聞く。その時間が、自分なりの次の一歩を考えるきっかけになります。

「葛藤と挑戦」というテーマが、登壇した6人から、会場にいる一人ひとりへと広がっていく時間でした。

登壇後、参加者と話す毛戸さん。

会場の各所で、登壇者を囲みながらそれぞれの経験や問いを重ねた対話が続きました。 

挑戦の種は、すでにあるものの中にもある

6人が語ったのは、それぞれが挑戦の途中にいる現在地でした。 

資金繰りに悩みながら描いている循環型の事業。利益にならなくても続けたい学生との取り組み。父から経営を引き継ぐまでに自ら置いた3年間。次の世代を迎えるための会社づくり。「継がない」と決めた先に描いている新しい仕事。そして、父から受け取った教えを、自分なりの事業へとつなげていくこと。そこから見えてきたのは、新しい挑戦の種は、これまで積み重ねてきたものの中にもあるということでした。

長く続いてきた技術。先代から聞いた言葉。地域や顧客との関係。仕事を続ける中で感じてきた違和感や問い。

それらと向き合いながら、「何を受け継ぐのか」「何を変えるのか」「自分は何を次へ渡したいのか」を考える。その過程から、新しい事業や働き方が生まれていきます。

そして、その答えが最初から見えているとは限りません。

登壇者が迷いや葛藤も含めて現在地を語り、そこから対話が生まれていたことも印象的でした。 

ZET-BASE KYOTOにも、さまざまな技術や事業、そして「これからやってみたいこと」を持った人たちが集まります。

まだ言葉になっていない思いや、事業になるか分からないアイデアも、人と出会い、話すことで少しずつ輪郭を持ちはじめることがあります。

今回のアトツギラボで生まれた対話も、そんな次の挑戦へ向かう一つのきっかけになったのではないでしょうか。

何を受け継ぎ、次をどうつくるのか。 

この日交わされた言葉の続きが、それぞれの場所でどんな挑戦につながっていくのか。ZET-BASE KYOTOでも、その続きを楽しみにしています。

会場の各所で続いた対話。この日の出会いや言葉が、それぞれの次の挑戦へとつながっていきます。

開催概要

イベント名:アトツギラボ vol.30|応縁を生むアトツギCo-ラボ
テーマ:応縁を生むアトツギ Co-ラボ
開催日程:2026年9月30日(水)18:30〜21:30
参加者数:26名
会場:ZET-BASE KYOTO(京都府向日市寺戸町山縄手21番1 京都フィナンシャルグループ MUKOUビル 3階)
主 催:一般社団法人応縁堂
共 催:ZET-BASE KYOTO(株式会社ツクリエ)
協 力:TERA-Energy株式会社

登壇者:
川村 啓太 Keita Kawamura | 川徳商事株式会社 代表取締役
北川 翔一 Shoichi Kitagawa | 株式会社北川商店 取締役
谷本 祐輝 Yuki Tanimoto | 三彩食品有限会社 代表取締役 
布浦 佳乃 Kaho Nunoura | 株式会社モアライフ 総務担当
毛戸 健嗣 Kenji Kedo| 株式会社毛戸製作所/KeDDii ALPHA株式会社 代表取締役